やきもの日和

やきものを作ったり俳句を作ったり

七月の歌仙

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今月から新たな歌仙がはじまりました。

蛍火の巻です。

あんまり暑くてちょっと歩くだけで生命の危険を感じるような猛暑の中、連衆の皆様がお集まりくださいました。これぞ、風狂の友!


発句 蛍火の一つ点りて二つ消ゆ  正藤

怖ろしいほど美しい蛍の句。



脇   簾巻き上げ耳を澄まして  中江

  作者は夜の音を聞いたのだそうです。私だったら「簾巻き上げ聞く夜の音」とか書いてしまいそうですが、あまりあらわに表現しない奥ゆかしさが。作者の個性でらっしゃるのでしょう。


第三句   対岸を祇園ばやしのかすかにも  笹次

なるほど、耳を澄ましたのは水を超えてくる祇園ばやしだったのか。季節感たっぷり風流な展開。


   五山の雲をしばし眺むる  中江


祇園の小路を出てぱっと広い景色へ。
五山は勿論中国が本場ではありますが、祇園ばやしの後ですから京都の五山でしょうね。無季の句ですが、送り火の跡も見えるでしょう過ぎゆく夏の気分を秘めたなかなかの展開。そしてつぎは月の定座です。


 月の道見知らぬ人に会釈され  梶


月の句は名吟ぞろいでした。ご紹介しましょう。

 〇 秋の月寂しがり屋に味方する

  「秋の」が少し気になったけれど「味方する」はなかなかでてこない。

〇 乗り越して戻る一駅月今宵

一駅乗り越してしまって戻る、そういう日常の些事が月の夜はなんと詩的であることか。
さまざまな月があるなかで「月今宵」という季語にしたのが秀逸。

〇満月や影踏み遊びの兄妹

 影を踏むのは、その昔、呪法でした。子供の遊びに、大昔の宗教儀礼の名残があるのは、折口信夫も書いていました。そんな不思議な遊びをしている兄と妹には、なにか影があるようです。

〇ホームから月の光や最後尾  

  月の光に照らされた電車の、わざわざ最後尾に乗り込むのは月をずっと眺めるためですね。月と電車の取り合わせは、珍しくないとはいえ銀河鉄道のようで詩的です。

〇雨去りし椰子の葉騒や後の月

田中一村のえのようです。「後の月」が上手い

〇白髪を束ねて軽し十三夜

白髪になって細くもなった髪は束ねても軽い。十三夜の白々とした光によく似あいます。

〇 湯の街に眉ほどの月出でにけり

どことなく艶冶な風情が漂います。

良い句ばかりでしょ!つかれてきたのでこのへんで。
初折の表最後の句は


 影の出で入る盆踊りの輪  正藤

盆踊りの輪の中には亡くなった人も入るそうです。提灯の明かりに影になったのは、二度と会えないはずの、あの人ではないだろうか、そんな風に思える踊りの輪。
こうしてみると前句の月の道で会釈をした見知らぬ人も、この世の人ではなかったような気がしてきますね。

こういう風に、前句を転じたり、新たな視点を加えたり、またはお上品な流れをガラッとひっくり返して見たりするのが連句の楽しさ、遊び心です。

さて、先月から、歌仙をその場で紙に書きしるすことにしました。文代を引き下ろすことがすなわちできますね。