歌仙蛍火の巻も初折の裏、後半に入りました。
先月は恋の句
名前を読んで空振りの恋 梶弘美
まででした。さて、この恋はどう展開するのでしょうか。この句会、恋の句は毎回すっごく盛り上がっちゃうんですよね。
さまざまな恋句の中で、ちょっと変わったテイストのこの句をいただきました。
七句目 スラバヤにばったり出会う同級生 西
この句を恋とみるかどうか、微妙みたいですが、思いがけない土地で、「あの人は!」と思うところただならぬものがあると見ました。
スラバヤか~。行ったことないけれど、金子光晴の「マレー蘭印紀行」とか、詩集「眠れパリ」などをおもいだします。彼女(妻、森三千代)を連れて文無しで放浪ってすごいね。一人なら、まだわかるけど。
八句目 心残して波の音聞く 笹次
初恋の同級生と別れたのかな。スラバヤの波の音を一人聞く船上のひと。金子光晴も、彼女だけは、と先にパリにやって、なお一人東南アジアを彼方此方さまよった挙句、パリに行ったんですものね。
九句目 溌溂と光を曳きて燕来る 正藤
春の句になりました。「光を曳きて」という表現がいかにも燕の早い飛び方を彷彿とさせます。、燕は、南の国からの春の使者ですから、南方の辛い恋の思い出を言外に匂わせているかな。
ただ、個人的な趣味ですが「溌溂」がちょっとひっかかりました。「光のようにとびまわっている燕は、わざわざ書かなくても生き生き溌溂としていることが想像できると思いましたので。
十句目 春風遊ぶスカーフのさき 中江
花の定座の前ですから、さりげなく、 軽やかな春の句をいただきました。薄く明るい色のスカーフのヒラヒラ感が前句の燕の飛翔感とそこはかとなく呼応していますし。
十一句目花の定座
橋三つ巡りて花の人となる 梶
うーん、良い句ですね。連句会場の山中温泉は深い峡谷を挟んでいますから、黒谷橋 綾取り橋。こほろぎ橋、とそれぞれに物語のある橋がかかっています。しかし、それを知らなくても、この句は良い句ですね。橋を巡り人生の様々な場面を巡って、今、花の下に立っている。万感のこもる花の句。
十二句目 茶摘みの歌を、明日につなげて 西
もとのくは「明日につなげる」でしたが、前句も「なる」で終わってますので。
花も終わり初折の裏も終わって、いよいよ名残へと入る。次へと続く思いを最後にいただきました。
今回も面白い展開でした。