先月は五句目の月に
山寺の薬壺に届く月の道 佐藤
由緒ありそうな山寺の夜の景から
折端 垣の端より瓢の垂るる 西
文字通り飄々とした仙人か、禅者の隠れ住む、住まいの佇まいへと転じ
ました。
さて、初折の裏です。
月の句からの秋をもう少し続けます。
一句目 黄落の真只中へ人力車 中井
銀杏並木でしょうか、黄色に輝く黄落の中へと走りゆく人力車。
印象的な映像的光景。明治時代の物語のようです。
こじつければ、前句の もの寂びた家で、何か密談が交わされていたのかもしれない、これから決起でもするのか、という感じ。
二句目 かりがねの声耳に残りて 平井
雁の声、「カリカリ」と鳴くのだそうですが、どこか切ない声ですね。その声が耳に残って離れない。それは作者の心に何か切実なもの思いがあればこそでしょう。
と、いうわけで、恋の呼び出しと読んでみましょう。そうなると前句の人力車は恋の逃避行か、と読み替えることもできて面白いですね。
三句目 もうなにも迷わぬ齢空仰ぐ 梶
なにも迷わない境地。すばらしいですね。孔子様でも「六十にして耳順」、「七十にして心の欲するところに従いて則をこえず」、まででした。「なにも迷わない」境地とは、むしろ思い切って迷わず突き進むという若さかもしれませんね。
四句目 スケッチブックの横顔若し 橋本
古いスケッチブックに残された横顔。そっと盗み見しながら描いたって感じ?!
その面差しも、すでにセピア色。恋離れです
五句目 調緒の張り確かめて冬にいる 佐藤
格調ある一句ですね。鼓を打つ前に入念に緒を調整する楽士の所作。ハーハーと息を吹きかけたりもなさってますね。演奏前の緊張感が肌寒い季節の空気感と良く似合います。
六句目 瀬音に沿いて梅探りおり 中井
冬の句は二句ぐらいにしておこうと思って、もう探梅となりました。
個人的な感覚かもしれませんが、かすかな瀬音を聞きながら流れに沿ってあちらで「あ、あった!」こちらでも「あった!」と花を見つけて気持ちが入る心の動きは、楽曲の流れの中でハッシハッシと打たれる鼓の音と共通してませんか?
そんなところで、また次回をお楽しみに。