朴の花が咲くと、窓を開けたまま眠る。緑の中に塊麗の巨花を擡げるモクレン科の植物は、泰山木、辛夷、大山蓮華等、どれも天上的な芳香を降らしてくれる。
辛夷の香りはスーッと頭の中が軽くなる感じ。泰山木はやや濃艶さが加わるが、朴の花の香りは両者の中ほどで、しかもその名の通りどこか質朴な野趣がある。
しかし、純白の花はあっという間にみるかげもなく萎れてしまう。天人五衰というか、茶色のまま樹上にしばらく揺れているのが悲しい。
朴散華即ちしれぬ行方かな 川端茅舎
散るときはもう完全に花屑になってますからね。
膝丈にも満たない小さな苗を植えて三年ほどで軒に近づく高さになった。成長が早いから木質がスカスカで軽い。それで下駄とか太刀の鞘に使われてきた。広々とした葉も朴葉味噌とか、ご飯を巻いて黄な粉を振った素朴な朴葉にぎりとか、使い勝手が良い。
皇祖神(すめろぎ)の遠き御代御代はいしき折り酒飲むといふぞこの厚朴(ほほがしわ)大伴家持
万葉の歌人が「遠き御代」には酒宴に敷いたといっているのだからずいぶん昔から使われてきたのだろう。まぁ、この葉をみれば縄文人だって食器にしただろうと思う。
朴の葉で包み焼にすると、網に焦げ付かず香りも良いので、私も良く使う。かわいそうに、手の届く限りの葉っぱは、むしられて秋を待たずしてなくなってしまうのだ。
俎板に風の触れる日朴の花 おるか