やきもの日和

やきものを作ったり俳句を作ったり

単純作業と「海辺のカフカ」「ペッパーズ・ゴースト」猫殺し

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 焼き物を作る仕事には絵付けやろくろのほか、単純作業の下仕事が山ほどあります。午後は、窯詰め用のハマ作りをして過ごしました。昔は音楽を流していましたが、今はオーデイオブックを聞きいています。単純な手作業をしながらだと、ただ本を読むよりいろいろ考えますね。
 春の雪の降りつのる中、「海辺のカフカ」をききながら、ふと似たような話を思い出しました。フロイトの女性患者「ドラ」の二つの夢の話です。

 

第一の夢「家が火事で、母親は宝石箱を取りに行ったが、父親が助け出してくれる」

第二の夢「ドラの母親からの手紙で、(ドラが無断で家を出たので父は死んだが、戻ってきたければそうしても良い)と伝えられ、駅に向かおうとするがなかなか行きつけない」
 フロイトは第一の夢を火宅という現実から逃避し、父への固着へ向かう病的方向とみなし、第二の夢は母の許しと象徴的父殺しによる開放・回復の方向、と考えるようです。(おもいっきり単純化しています)

海辺のカフカ」の主人公カフカ少年の、”夢うつつ”の母・サエキさんはドラに似ています。彼女は愛する人を失って病的状態になりますが、父の死後(母親からの知らせ?)で故郷に戻り一見普通に暮らしているように見えますが、内面的には夢とうつつを揺れ動いているような存在です。
カフカ少年は、母親不在のまま父との火宅にいます。父親は母だけを求めて猫殺し(象徴的子殺しでしょう)を続けている。家を出たカフカ少年はそれによってドラのように父を殺し、母に父の立場を許される。「海辺のカフカ」は、思い切り単純化すれば、入れ子になったドラの夢の世界とその冥界を抜ける物語ではないかなというきがしました。一度冥府に降りてまた抜け出す地獄くぐりは世界中にみられる、少年から成年へのイニシエーションのパターンですね。

 図式的すぎる解釈をしてもしょうがないのはわかってるんです。問題なのはいかに書くかですものね。小説世界の豊かさと巧妙な構成には全く感心してしまいます。こういうテーマでさらっとおもしろいなんて神業ですよ。猫殺しを止めるために少年の父を殺してしまうナカタさんと相棒のオシノさんのドタバタロード・ムービーな展開は楽しくて、最近読んだ伊坂幸太郎の「ペッパーズ・ゴースト」をおもいだしました。そこに出てくる虐待された猫たちの復讐請負人ネコジゴハンターの二人の掛け合いもゆかいです。女子高生の書いた小説の中の出来事なのか?と思わせてひねった展開も面白い。伊坂幸太郎という作家の作品はそんなに読んでいませんが、不思議にリアルな、ちょっとした超能力のある人達がいる世界なんですね。かなりいやな人間もいますが、後味が悪くなくて楽しく読める作品群です。ただどちらの小説でも猫の虐待シーンだけは想像したくない…。(人物の名前、なにぶんオーディオブックで聞いているので漢字がわからないもので、聞き取った音で書きました。)