春寒料峭の山中温泉芭蕉の館。句会のお部屋には由緒あるお雛様が飾られてありました。
二月は春の短句からです。
紙の雛(ひひな)のままごと遊び 梶
かわいらしい光景ですね。お雛様といっても紙でできている。はかなげな軽さに哀感あり。
さて、いよいよ花の定座です。素晴らしい花の句がたくさんありましたが悩みに悩んでこの句をいただきました。
狩衣のしばしとどまる夕桜 笹次
蕪村の句に「公達に狐化けたり春の宵」がありますが、こちらの夕桜も化かされてしまいそうなうつくしい王朝絵巻ですね。
春の夕べに桜の下にたたずむ狩衣姿の貴公子。業平朝臣のような美形なのでしょう。ああ化かされてしまいたい。
さて初折の裏もとうとう最後です。
玉三郎の指に往く春 佐藤
先ほどの絵姿は、芝居の中の出来事でした」という感じに展開した,ウマいつけですね。
当代きっての、というより空前絶後とも言える名女形玉三郎様のしなやかな指先に春を惜しむ。なかなか。
さていよいよ名残にはいります。初折から名残へと舞台が変わりますので、たまに変則的に季移りをしてみました。
春から夏へと移ります。
心太黒蜜たっぷり忌を修す 笹次
歌仙は三十六句の中に、この世のあらゆる情感を盛り込むと言います。初折では恋もありました。この辺で無常迅速の思いをちらと出すのも一興ですね。夏はただ明るいばかりでなく影も濃い季節です。
生老病死を詠うに良い時節かもしれません。
ともあれ、心太にかけるのは普通黒蜜でしょうから、わざわざ黒とつけなくとも「蜜たっぷりと」くらいにした方が口調がなだらかだったかもしれません。次句は
蓮の浮き葉を見て小半時 佐藤。
これもさらりとしていながら、じっと蓮の浮き葉を見つめる心には、何か深い思いがあったに違いないと思わせる、前句の流れを巧みにおさえたつけです。非常にうまい付けだとおもいました。
さて次回は無季の長句です。新しい展開が楽しみです。