母屋と仕事場の間の日当たりの悪い湿った中庭。家の周りは雑草の王国だが、ここだけはシダ類,苔類が死守している。
なおかつ、その領土を簒奪せんものと、ゼニ苔はじわじわと匍匐前進を進め、春には一世を風靡していたムチゴケの一族を容赦なく襲う。羊歯類はシダ類で場所を取り合い、大切にしていたヒトツバの類は消えてしまった。、シダ類の中では珍しいつる性のカニクサは余命を繋いでいる。
小さな中庭の、シダ類苔類の音のない殲滅戦の栄枯盛衰を眺めながら、万感の思いに浸るのである…。似た者同士なのにね。いやそれだからこそなのか。
見た目が悪くて嫌われ者のゼニゴケがどうも優勢なようで、ついむしってしまう。
すると、意外にもゼニゴケって香りは悪くないのね。グリーン系の奥ゆかしく、香水のベースにできそうな強さもあって。造物主の慈悲を感じる。こんな、誰も見ないような嫌われ者の苔に、かくも気高い香りを秘めておかれるとは。
夏ワラビなべて苦きは夢の奥 オルカ(青花帖)