写真、句集右側の、おもしろいかたちのモノ達が、ひょんの笛です。
小さいのは,さる方が、金澤の公園だったかどこかでお拾いになったというもの。
大きめのが,ひょんの笛普及会会長の呼び声も高い、俳人深津健司氏が御手ずから磨かれた、ひょんの笛です。
木の実ではなく、虫瘤だそうで、虫が出て行った跡が、おのずから歌口となっているわけです。
形といい、「ひょん」という音と云い、飄逸ですね。俳味がある、というんでしょうか。
句集もまた洒脱。どのページもさりげなく、良い具合に肩の力のぬけた味わい深さです。
その蝉の戻ってこない蝉の穴 健司
ひょんの笛もまた然りですね。
先日、深津氏に墨堤から向島界隈を案内していただく機会がありました。
隅田川に架かる橋の一つ一つについて、そして山谷掘りから吉原方面をのぞむ水天宮など、指差されながら,御父君との思い出などを交えてよいお話を伺いました。粋な父子ですね。
歴史や由来にあまりに詳しいことにかえって照れるような含羞の語り口がいかにも東京人らしい。そして
切り火して寒九の水を汲み上ぐる 健司
こういうことを実際に、生活ののなかで普通になさっているんですよね。
お出かけのときは奥様が背中に切り火なさると、うかがっております。、
ひょんの笛吹いて老いゆくそれもよし 健司
瀟洒な境涯ですね。
春雪の根岸に古き洋食屋 健司
たまらなく懐かしいですね。この句も最後の通人深津健司氏の日々の中の一齣だからこそのあじわいといえるかもしれません。