やきもの日和

やきものを作ったり俳句を作ったり

お正月に読んだ本

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おもしろうてやがてかなしき…。

 

今年のお正月はかなり、読みました。写真は金沢にお住いの、山上たつひこ先生から、年末に御恵贈賜ったご著書です。五編の短編集なのでさらさらと、外連のない文体に乗せられながら作家のたくらみに引き込まれ、あらら、とおどろく間に終わってしまいます。

 書名になっている「王子失踪す」は、アイロニーの効いた「子故の闇」ですかしらね。この闇の深さは平安時代藤原兼輔の昔から変わらないのね。

 御気の毒みたいなお父さんの最後の一言にちょっと笑って、存外これで幸福なのかもしれないな、と思い直した。

二番目の「キャロル叔母さん』は、トルーマン・カポーティの「クリスマスの思い出」を想起させる美しいお話のごとく始まるけれど、「こんなことになろうとは!」の結末。

ごく平凡と言われるような人の中にも、それぞれ闇というか過剰なものがある。上田秋成の「雨月物語」の「吉備津の釜」の磯良は過剰に善人だし、「菊花の契り」の二人は過剰に誠実である。その過剰は何かに触発されれば一気に堰を超え、狂気へとあふれ出てしまうのかもしれない。

三篇めの「その蛇は絞めるといっただろう」はその触媒が蛇なのだけれど、なんとなくほっこりするお話。

 他に、桜守りで高名な園芸家の逸話を下敷きにしたらしいお話もあった。確かに桜は狂気を呼びますね。兼六園の菊桜は満腹した妖怪という趣ですし。今年は菊桜見に行こうかな。読者サービスにあふれた一冊でした。